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14 妻は夫のライバルとなることを恐れるな


紀平悌子 (婦人運動家)

先ずもって、お二人に”おめでとう”を心から申し上げます。
さて私は、新郎の妹ですので、今日はさりげなく新郎をほめながら、新婦には人生の伴侶として内助の功をひたすらお願いするのが定石でしょうが、新婦とその性を同じくする女の立場から、本音を言わせて頂きたいと思います。
 

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先程からの来賓の御祝辞を承る中で「著述をなりわいとする新郎の連れあいとなるお人が抽象絵画を能くする新進気鋭の芸術家であることは、同じ感性の世界で自我を主張してゆくライバルとなりかねない・・・それが生活共同体としての夫婦にとっていい事か悪い事か」とのご心配が印象的でした。
 
結論が早くて恐縮ですが、時に憎みあうことがあっても妻は夫のライバルとなることを恐れてはならない・・・これこそ現代の良妻であり賢母たりうる資格だと私は思うのです。
 
 
私自身も、仕事と家庭生活にゆき悩む三十年余の、それなりの歴史を歩いてきました。
家事・出産・育児の軛(くびき)をひきながら女が仕事をすることは生易しいものではありません。戦前の家制度のもと、「女三界に家なし」と言われた頃とは若干違いますが、法律制度の上で男女同権が認められて三十五年を経過した今も、女の立場はたいして変わっていません。
 
主婦は台所で一日中働いても、また夜もすがらの育児も、その生産性を認められないで、いわゆる生産の場は全て男に独占されています。この姿は、江戸時代の武家の女の地位と大して変わらないと思いますよ。徳川幕府に変わって株式会社ニッポン国に仕える夫の経済力に頼らざるを得ないのですから。
 
この間、”クレイマー、クレイマー”という映画を見ましたが、恵まれた家庭に居ながら「何か足りない」と考えたクレイマー夫人が家出をするアメリカ社会の現代版ノラの話です。これが日本だったら、主婦が家庭から出てゆけば忽ち食いつめてしまうでしょうね。
 
とにかくこんなぐあいで、女は家事、育児に専念して”良妻賢母”となり、男は家事、育児には無能の”仕事の鬼”となる状況が蔓延するわけです。
 
さて、考えて下さい。もし夫が仕事に仆(たお)れれば、社会保障の弱い日本では残された家族は忽ち路頭に迷うかもしれません。これを思うだけでも、結婚を終着点とし、家事・育児を天職と考える女の結婚観は極めて危険だと思うのです。
子供が生まれると確かに可愛いし、離れ難く、子育ては女に張りを与え、これこそ生き甲斐だと感じます。
 
その母性は貴重ですが、子供二人を育てても愛児にぴったり寄り添って過ごせる時間はせいぜい十四、五年で、彼らはそれぞれ自立してゆくのです。平均寿命七十八歳といわれる女の人生が、家庭に生きることだけを目標にして十分に満たされるものでしょうか?
 
特に才能や意欲のある女ほど、目標を喪った人生に悩むでしょう。こんな妻の不幸せは、夫の不幸せ、今日の新婦もまた、結婚を境として、人間として生きるか、妻として生きるか、選択を社会から、世間から迫られているように私は感じるのです。何故人間はその両方で生きてはいけないのでしょうか。
 
今年は、国際婦人年メキシコ大会から六年目にはいった年です。多くの男の人達は、少しでも男に追いつき、追い越せと女どもが叫び、女権を主張するのは甚だ迷惑だなどと考えておられるようですが、私の申し上げたいことは、男もまた、女以上に管理社会に縛られ、タテ社会の木ねじとなり、更に妻子扶養の軛にあえいでいる、それではおたがいにつらいから、もう少し女性の能力に扶(たす)けて貰ったらいかがでしょうか、という事なのです。
 
新婦のAさん!一般の職場と違って、利害の対立だけでなく感情的・非合理的問題を多く含むのが家庭ですから、難しいこととは思いますが、休まず仕事をお続け下さい。そうすることが、お二人の人生をより豊かなものとするにに違いないと思います。

「ここ一番役立つ有名人・名スピーチ集」 より


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公開日:
最終更新日:2018/08/17

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